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2020年11月16日月曜日

第二回:兵法書『孫子』はビジネスに役立つのか?


戦わずして勝つことを美徳とする書


『孫子』は冒頭で「戦争は国家の大事であり、国民の死活を決定付け存亡の分かれ道となるため、よくよく熟慮する必要がある」と語っています。


つまり、相手を攻撃することは最終手段と考え、無益な戦いを避け、戦わずにして勝つことを美徳とする書なのです。


「兵法書なのに?」と思われるかもしれませんが、第一回の内容で述べたように『孫子』はあくまで国家を存続させることを尊重した兵法書です。


そして『孫子』の内容は、対立する国家との力量が拮抗している状況で威力を発揮します。


この書物が生まれた時期は『春秋時代』と呼ばれ、後に周王朝が衰退すると血で血を洗う『戦国時代』へと突入します。


どちらの時代も「春秋の五覇」、「戦国の七雄」と呼ばれる実力者が覇権を争い、力の差がない苛烈な状況で戦争が行われました。


まさに『孫子』は、凄惨な戦国の世のニーズに合わせた兵法書であり、戦争という異常な状況下における対策案を記した書物なのです。


『戦国時代』と聞くと、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などが活躍した戦国時代を思い浮かべますよね?


日本の戦国時代は応仁の乱から始まったと推定し、家康が江戸幕府を立ち上げるまでおよそ110年の出来事です。


一方で『春秋戦国時代』は、紀元前770年の平王による洛邑遷都から始まり、秦の始皇帝が中華統一を果たした紀元前221年まで続いた、およそ550年の長きにわたる騒乱の歴史。


生まれてから死ぬまで「戦争」が無くならない状態を、この時代の人間はほとんど経験することになります。


そのため、『孫子』は国家間の力量が拮抗した状況での「戦わずして勝つ」方法を見出し、いかに戦争をせずに他の国を奪えるかを熟考して書かれています。


その手段は、多少やり口が汚くても構いません。


大切とするのは被害を最小限に抑え、利益を重視した現実的な「国盗り」を成功させることなのです。



風雲急を告げる「キャッシュレス決済」の陣取り


「国」を「企業」に置き換えれば、ビジネスにおける吸収合併などが当てはまります。


近年では、不況により銀行の吸収合併が相次ぎましたが、こちらの事例も「国盗り」だと思えば似たような状況ですね。


そして、この記事が書かれた2019年9月現在、サービスの質が拮抗しているという意味で注目されるのは「キャッシュレス」のインフラ整備です。


『楽天ペイ』や『PayPay』といった、「何とかpay」と揶揄されるほどサービスが乱立している状態ですが、こちらもいずれは吸収と合併が繰り返され、一つのシステムに集約されるはずです。


すでに『楽天ペイ』と交通系に影響力のある『Suica』がタッグを組み、楽天ペイでSuicaをチャージできるなど、ますます便利になる傾向にあります。


特に楽天はポイントサービスに強い企業なので、この協力関係は業界を一歩リードしたといっても過言ではないでしょう。


反対に躓いてしまったのが、『セブン&アイ・ホールディングス』が打ち出した『7Pay』。


セキュリティの問題で違法な取引が相次ぎ、謝罪会見での対応のマズさから2019年9月末にサービスが廃止に追い込まれるなど、イマイチ波に乗れない傾向にあります。


…とはいえ、コンビニ業界では国内で圧倒的なシェアを誇るセブン-イレブンなので、いずれは何らかの対策を講じる可能性があるはずです。


「彼を知り己を知れば百戦殆ふからず」という名言を聞いた人があると思いますが、こちらは『孫子』の謀攻篇の一節である「知彼知己、百戰不殆」によるものです。


『7pay』の事例では、謝罪会見の内容からサービスに関わったスタッフの知識不足が露呈しました。


「2段階認証を知らない」という当事者の致命的なコメントにより、ユーザーの不安を煽ってしまうことはもちろん、実際に被害に繋がりサービス廃止となってしまったのです。


こちらは「己を知る」ということを怠ってしまった結果だと思います。


技術不足だと分かれば優秀な人材を登用すれば良いことですし、今はサービスが乱立しているため、セキュリティに定評のある企業と協力することも一つの手です。


『孫子』にある金言は、こうした些細なことでも気付きを生み、負けない企業体質を作る契機になるのです。


※2019年9月4日に掲載した記事です 


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