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2022年5月12日木曜日

映画『孤狼の血 LEVEL2』に見る近代邦画の危うさ

 


映画『孤狼の血 LEVEL2』を鑑賞


AmazonのPrime Videoで映画『孤狼の血 LEVEL2』が配信していましたので鑑賞しました。


率直な感想として「違和感」の多い物語といった感じです。


松坂桃李さんや鈴木亮平さんの演技は世間で絶賛されている通りで申し分ないのですが、肝心の物語が破綻しているために、何とももったいないという印象ですね。


松坂さん演じる日岡刑事は、前作の『孤狼の血』で役所さん演じる大上刑事の意志を継いだことにより、警察内での役割がほぼ決まっているため説明は不要ですが、問題なのは鈴木さん演じる上林です。


※ここからはネタバレありの内容になるためご注意を!


親殺しのタブーを次々破る壊れたキャラクター


まず冒頭から、上林は暴力団組織である広島仁正会の幹部を殺しまくります。


ここで「えっ?」となりますが、暴力団組織において親殺しは最もタブーな行為です。


少し想像を働かせれば分かりますが、上司と部下の関係がこじれると、どの社会においても深刻な軋轢を生んでしまいます。


まして暴力団組織は血の気が多い連中が集まっているため、上下関係は非常にシビアで、もし親分を殺してしまうような者がいると組織全体で制裁を加えます。


この辺りはゲーム『龍が如く』でも丁寧に説明されており、組織で優秀だった主人公・桐生一馬は、親殺しの罪ですべての組員から命を狙われます。



つまり上林の行動は現実的に「ありえない」ですし、単なる快楽殺人者だと周りの人間は認識するため、組織のリーダーとしては大失格なのです。


組織が衰退していく様を見て思うところもあったでしょうが、「なんもかんもぶっ壊せばえんじゃ」では後が続きません。


これなら危険視された上林は組から破門され、出所後、その復讐のために幹部を殺しまくったとなれば腑に落ちるような気がします。


警察組織にも喧嘩を売るスタイル


前作では、大上刑事が警察組織の不祥事をリスト化したノートを所持しているという設定になっていましたが、このノートは日岡刑事の手に渡っています。


日岡刑事は警察幹部の弱みを握っており、暴力団組織とも関係は良好なので、危惧した警察組織は混乱を招くために殺人鬼・上林を野放しにしたというのが今作の内容です。


……こればかりは「さすがに他の方法があるやろ」と思ってしまいます。


過去の警察組織は、暴力団との付き合いを必要悪として認めていた時代もありましたが、『暴力団対策法』が施行されてからは、年々警察内部でもその関係性を断ち切るために取り締まりが厳しくなっています。


Netflixで配信中の『全裸監督』でも、暴力団組織から賄賂を受け取る刑事はいましたが、後々に逮捕されています。



つまり、日岡刑事もその道を辿る可能性は十分にあるということです。


まして留置所の看守の妹を殺した犯人に手を貸すなんて……いくら何でも話が矛盾していますし、看守って警察の一員として認められてないの?


特に看守は恨みを持たれやすい立場なので、もし今回のような事件があれば血眼になって犯人を炙り出そうとします。


組織の腐敗をテーマにしているとは思いますが、色々と空回りしている印象なので、最後までスッと物語が頭に入って来ないのが残念ですね。


物語のしっかりとした土台は必要


役者の演技が絶賛されている今作ですが、先にも述べた通り「違和感」が拭えない箇所が多いため、素直に楽しめない作品になってしまった感じです。


映画『アウトレイジ』が3作で終わってしまったこともあり、『孤狼の血』は新しい時代の『仁義なき戦い』として期待されているため、物語の背景が破綻していると非常にもったいないという印象になってしまいます。


「フィクションだから」で済ませても、その世界に詳しい人が見れば分かってしまう矛盾なので、ある程度の調整は必要だと思います。


……厳しいことを色々と言いましたが、酷評という意味ではなく、むしろ可能性を感じるシリーズになりそうなので「あえて」言わせていただきました。


3作目の撮影も決まっているらしく、大切に育てて欲しいですね。


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