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2018年2月28日水曜日

江戸川乱歩『パノラマ島奇談』の感想

■江戸川乱歩の代表作の一つ『パノラマ島奇談』





■作品概要


売れない作家の人見廣介は、職に就かず貧しい生活を送っていたが、彼には夢があった。其れは自分の想像した桃源郷を実現すると云う、荒唐無稽な理想である。M県S郡の南にある孤島、沖ノ島はT市の菰田家所有の財産となっていた。島の開発による建築作業が進行していたにも関わらず、不思議と計画は頓挫し、其の途中において菰田家当主である源三郎が此の世を去ったのである。源三郎の死亡を聞きつけた人見は、彼が自分と瓜二つである事を利用し、島へ潜入を試みる。人見は菰田家の莫大な財産を使い、過去に思い描いていた楽園を島で建造する事に成功する。…然し、人見は自分の正体が見破られ殺人まで犯してしまう。

■作品の感想

乱歩は『双生児』を読んでも分かる通り、他人と入れ替わるシチュエーションを好みます。乱歩自身にも変身願望があったのではないでしょうか?

普通に考えても、他人と入れ替わる事は現実において不可能ですし、人間に備わっているセンサーは恐ろしく精密で、嘘を容易く見破りますから。

他人は騙せても身内はほぼ不可能だと思いますよ…あくまで個人的な意見ですが。

そんな話は隅に置き、この物語は人間の欲望を極限まで高める事に成功した男の、哀れな顛末を描いた幻想譚です。

第一、主人公の願望からして理解できません。島の中に「桃源郷」を創造するという、何とも荒唐無稽な願望です。

主人公の人見は莫大な費用を掛けて建造に成功しますが、まるで遊園地が島の中に現れた様で、何とも不可思議な光景が目の前に拡がります。

文章による桃源郷の描写は秀逸で、本作品のメイン場面と評するものでしょう。乱歩のイマジネーションの全てが詰め込まれています。

ふと島の維持費の事を考えてしまいますが、これは幻想譚なので語るのも野暮というものですね。

横溝作品にも見受けられますが、「絶海の孤島」で起きる事件というのは好奇心を刺激します。恐らく、現実離れした場所ほど怪しげな雰囲気が増すのかもしれません。

この『パノラマ島奇談』は映画、ドラマ、漫画と幅広いジャンルで作品化されています。中には原作からかけ離れた内容の作品まであるため、クリエイターにとっては表現力を刺激する何かがあるのだと思います。
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