7月25日の全国高校野球岩手大会による決勝戦。
この時、大船渡高校のエースピッチャーであった佐々木朗希投手の登板を期待されていましたが、監督の判断により出場しませんでした。
勝てば甲子園への切符を手にするにも関わらず、監督は医師による「骨や筋肉、じん帯などが球速に耐えられるほど成長していない」との判断により、登板回避を決意。
佐々木朗希投手は、最速163キロをマークするほどの剛腕ピッチャーですが、身長190cm・体重86キロの細身であるため、監督は慎重な起用を心掛けていました。
今回は決勝という大舞台での登板回避だったため、このことが議論の的となり、さまざまな関係者からコメントが出ることに。
特に注目されたのは、張本勲氏による「最近のスポーツ界で私はこれが一番残念だと思いましたよ。32歳の監督で若いから非常に苦労したと思いますがね、絶対に投げさせるべきなんですよ」というコメントです。
これには賛否両論が巻き起こり、年配者からは賛成の声が多い中、MLBで活躍するダルビッシュ投手は真っ先に反対し、張本氏に対してこんな意見を述べています。
ずっと停滞していた日本球界を変えていくには勉強し、今までのことに疑問を感じ、新しいことを取り入れていく。— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) August 3, 2019
その中で議論というのは外せないツール。それを黙って仕事しろとはまさに日本球界の成長を止めてきた原因って気づけないのかな?https://t.co/aq49QQH19S
以前より、ダルビッシュ投手は張本氏の意見に対して反論していることが多かったですが、今回はより顕著に自らの主張を通したといった感じです。
甲子園でのドラマには松坂大輔投手のような事例(※)もありますから、「高校野球なら投げ過ぎても構わない」という考え方の人と、「そんな時代ではない」という考え方の人に分かれるのだと思います。
※最後の夏となった第80回全国高等学校野球選手権大会では、準々決勝で上重聡(後に日本テレビアナウンサー)や大西宏明や平石洋介や2年生田中一徳を擁する(春の準決勝で破った)PL学園高校に延長17回という長丁場の試合に250球を投げ完投勝利。翌日の準決勝、寺本四郎擁する明徳義塾戦でも1イニングに登板し、逆転劇を呼び込む。-wikipediaより
これは私の持論ですが、過去とは違いスポーツに関わる医学も進歩したため、長い目で見れば「佐々木朗希投手を守った」と受け取って良いかもしれません。
ただ、決勝戦であることから大船渡高校のナインに多大な影響をもたらし、実際に花巻東高校には負けてしまい、甲子園へ行くことができませんでした。
結果論なので何とも言えませんが、張本氏による「ダメになった選手はいくらでもいるんだから。監督と佐々木くんのチームじゃないから。ナインはどうします? 1年生から3年生まで必死に練習してね、やっぱり甲子園が夢なんですよ」というコメントも一方では正しく、一方では皮肉にさえ聞こえてしまいます。
しかし、人の持つ資質はそれぞれ違います。
一度、野球でひじを痛めれば手術するのは避けられず、まして成長期にある身体に負荷をかけ続けることは得策ではありません。
野球チームに所属している小学生289人のひじの状態を検査した結果、過去にひじを傷めたり、現在ひじを傷めたりしている選手は89人で28%に上りました。また、病院がある高校の野球選手60人を調べたところ、39人が小中学校でひじを傷めた経験がありこのうち半数近くが高校でもひじを傷めていました。
…この内容を聞くと「野球自体が危険なスポーツではないか?」とさえ思ってしまいます。
ましてや成長期にある高校生、そして将来プロになる可能性のある人材を、生涯にわたって影響するような怪我を負う必要は1ミリもないはずです。
この辺りは冷静に大人が判断することが大切になります。
根性論は現代においてあまり美化されません。
確かに、起用に慎重になれば甲子園でのドラマが薄味になるかもしれませんが、それはそれこれはこれです。
特にMLBでは「ひじは消耗品」という考え方があるため、過去の登板回数・投球数をしっかり見ている可能性があります。
つまり将来を見据える意味でも、大船渡高校の國保(こくぼ)監督の判断は、とても現代的と言えるかもしれません。