映画『マリッジ・ストーリー』の感想
Netflixにて2019年に配信され、ゴールデングローブ賞では最多6部門にノミネートされるなど優れた作品として注目された映画『マリッジ・ストーリー』。
スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバーが主演を務め、長台詞の多いシーンを非常にリアルに演じています。
邦題を直訳すれば「結婚物語」ですが、内容は二人の夫婦が離婚を成立させるまでのお話。
離婚をテーマとすることで重くなりがちな雰囲気を、二人の演技でコメディタッチに、かつ愛情深く描いています。
特に必見のシーンは、殺風景な部屋の中で行われる二人の口論でしょう。(ネタバレになるため動画の視聴は映画鑑賞後をオススメします)
このシーンに関しては、実際に離婚を経験した人からも称賛され、二人の演技力に高い評価が与えられています。
映画を観終わった後の切ない気持ち
この映画を観終わった後、「結婚なんてするもんじゃない」という意見が出るかと思いがちですが、実際は「結婚したくなった」とコメントする方も多数いる模様。
映画を観ると分かりますが、弁護士の介入によって二人の関係がおかしくなり、前向きな離婚からドロ沼の法廷論争へとハマりそうになります。
アメリカの裁判制度の複雑さを描いているため、あまり裕福でない二人が頭を悩まし、ついには子供の親権争いや養育費分配の件でイライラを募らせる訳です。
「悪いのは弁護士」と言いたいところですが、彼らはプロとして自分の仕事をしているだけであって悪意は一切ありません。
この点は実際に離婚を経験した方にとって、笑い話とは受け取れない事情があるかもしれませんね。
「結婚したくなった」との感想に至るとは到底思えない内容ですが、こうした欠点だらけの人間関係を愛情深く描くことにより、結婚生活の一つのカタチを鑑賞する方に提案しています。
鑑賞中は、二人の関係が修復するかもしれないという期待がある一方で、お互いの成長のため別れる必要があることを残酷なまでに実感します。
…例え二人の間に愛情があってもです。
だからこそ観終わった後は切なく、何とも言えない余韻が残るため、「こんな結末でも結婚して良いかも」と言える人がいるのかもしれません。
お似合いに見えてお似合いではない二人
妻であるニコール(スカーレット・ヨハンソン)と夫のチャーリー(アダム・ドライバー)ですが、ニコールが離婚を決意するまでは理想の夫婦です。
チャーリーも子育てに積極的で仕事への情熱もあり、大金を稼ぐような成功者ではありませんが、贅沢しなければ今後も平和に暮らせるはず。
…まあ「不倫」をしていた事実がなければ、夫として良い印象を残したまま終わるのですが、不倫行為が離婚の決定打になっている訳ではありません。
実際の離婚原因は、ニコールの焦りとも捉えられる、チャーリーから自立しなければならないという強い気持ちです。
だからこそチャーリーは「何で離婚しなきゃならないの?」と、常に頭の上に疑問符を浮かべています。
これは鑑賞者にとっても同じ気持ちになるかと思いますが、原因が曖昧なようで芯が通っている分、離婚が成立した時に不思議な感情を覚えるのです。
また、前半は理想の夫婦を描いているように見えますが、二人が並んで立っているところを想像すると、何とも言えない違和感のようなものを感じます。
そうした空気感を演者二人が意識しているのか分かりませんが、お似合いのように見えてお似合いではない感じが画面から滲み出ているのです。
現代はテクノロジーも進化し、簡単に人と人との繋がりを維持できる時代。
しかし、この二人は「単に連絡を取り合う」だけでは修復できない関係にあると思います。
一時期、日本では【死】という概念で愛する二人を引き離そうとする物語が乱発されました。
確かに、現代においては苦肉の策とも言えるかもしれませんが、この映画のように「人間」というものをしっかり描けば、深いラブストーリーを描くことも可能ではないかと。
数々の賞にノミネートされている理由も分かる気がします。
テーマは重くても鑑賞して損はない一本です。