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2019年4月12日金曜日

映画『メッセージ』とサピア=ウォーフの仮説



油断した、まさかSF映画で泣くとは思わなかった😭


オープニングからヒューマンドラマのような展開なので、「あれ、間違えたのかな?」と思いがちですが、映画『メッセージ』は秀逸なSFなのでした。


原作はアライバルという題名ですが、日本ではちと伝わり辛いと思ったのか、邦題はシンプルなメッセージという言葉を採用。


宇宙人と遭遇する映画は、過去に『未知との遭遇』や『コンタクト』などがありましたので、似たような作品かなと思って私は鑑賞しましたが、鑑賞後はまったく違った印象を持ちましたね。


宇宙人が使用する独特な言語(ヘプタポッド言語)は、制作の研究チームが生み出した創作物とのこと。


こうした裏方が頑張っている映画は良質な作品が多いため、この映画はアカデミー賞候補にまで上り詰め、その面白さに間違いはありませんでした。


※ここから先はネタバレが含まれますのでご注意ください!


■扱う言語が違えば人の思考も変わる『サピア=ウォーフの仮説』




この映画の基本テーマである、「他の言語を使用すれば人の思考が変わる」というものですが、これは『サピア=ウォーフの仮説』に基づいています。


『サピア=ウォーフの仮説』とは何? …と疑問に思う人もいるはずなので、wikipedeaの内容を以下に引用します。


サピア=ウォーフの仮説(サピア=ウォーフのかせつ、Sapir-Whorf hypothesis、SWH)は、「どのような言語によってでも現実世界は正しく把握できるものだ」とする立場に疑問を呈し、言語はその話者の世界観の形成に差異的に関与することを提唱する仮説。言語相対性仮説とも呼ばれる。エドワード・サピアとベンジャミン・リー・ウォーフの研究の基軸をなした。


…何のこっちゃと思われるかもしれませんが、つまりは「言語が違えば見ている世界も違うかもしれない」という仮説なのです。


https://filmaga.filmarks.com/articles/1944/%E3%80%90%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%AC%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%80%91%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%80%8E%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%80%8F%E3%81%AB%E7%A7%98%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E2%80%9C%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E6%A7%8B%E9%80%A0%E2%80%9D%E3%82%92%E8%A7%A3%E3%81%8D%E6%98%8E%E3%81%8B%E3%81%99


こちらに書かれた記事では、スイスの言語学者のフェルディナンド・ド・ソシュールが提唱する『ソシュールの言語理論』を引用し、この映画のテーマを掘り下げています。


言語には「INU」という発声される音としての側面(シニフィアン)と、「犬」という概念・意味としての側面(シニフィエ)の2つの機能がある。つまり「犬」という概念(シニフィアン)がまず存在していて、その概念に対して「INU」という音(シニフィアン)を当てはめている、というものが一般的な考えである。しかし、ソシュールの言語理論によればこの世界が完全に逆転し、「INU」という音を割り当てた言語体系があって初めて「犬」という概念が存在し得るというもの。


つまり、私たちが「INU」と言葉を発しているからこの世に「犬」という概念が存在するのであり、私たちが目にする世界は言葉によって形成されたものだと言いたいワケです。


日本語では「INU」ですが英語では「DOG」なので、この点から人が持つイメージがそれぞれ違いますよね。


また、山道を散歩していて「犬が出たよ」と言われるのと「狼が出たよ」と言われるのでは感じ方がまるで違います。


小さいお子さんなど語彙が少ない場合は、狼という言葉を知らない可能性もあるため、見た目さえ似ていれば「犬」と呼んでもおかしくないですね。


また、日本語は犬の呼び方にも「山犬」や「野良犬」といったさまざまな種類があり、呼び方一つでそのイメージは大きく変わってきます。


映画ではエイリアンの言葉を理解することにより、主人公であるルイーズに特殊な能力が芽生え始めます。


理解する言語が変わることによりエイリアンの能力が受け継がれ、見えている世界が変化して特殊な能力が身に付いた…というのが物語の流れです。


実際に、言語が変われば見えている世界が変わるのかは今も議論されていますが、例えば英語話者が日本語を修得した場合、イメージの変化に気が付いたのか統計を取りたいとことですね。


ちなみに、私は少しだけ英語を理解できますが、ヒアリングはできても話すことが苦手なポンコツなので、イメージの違いを感じたことは(今のところ)ありません😅


■未来を知る能力を身に付けた主人公の想い




編集が上手いのか、切り替わる場面で”謎”を提示しているのが面白いです。


サブリミナルのように「過去」と「未来」の映像が挿入され、時間軸が分かり辛いのが難点ですが、最後にその理由が明らかになるため、オープニングの意味を知ることになります。


未来の幸せも不幸も知ることになるルイーズは、それでも自分の見た未来を選び、前を向いて娘を産むことを決断します。


エイリアンが抱える問題よりもルイーズが抱える葛藤が印象として勝るため、SFというよりヒューマンドラマの傾向が強いのがこの映画の特徴です。


また、エイリアンが「武器を与える」という言葉でアメリカが大騒ぎになった理由は、自国が原住民となるインディアンに銃を与え、お互いに争わせて民族を根絶やしにしたという歴史があるからです。


こうしたさまざまな意図が含まれているため、一度見ただけでは気が付き難い部分が多々あると思います。


私も時間を置いてまた鑑賞するつもりです😄
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